JR東海事件最高裁判決で思ったこと

判決文はこちら

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/714/085714_hanrei.pdf

認知症高齢者の家族(妻と長男)に賠償責任はないとした今回の判決は、結論においては妥当なものだったと思います。

多数意見では、法定の監督義務者の範囲を限定的に解し、妻と長男はいずれも監督義務者には当たらないとしました。その上で、法定の監督義務者に該当しなくても、それに準ずる者として賠償責任を負う場合があるとし、判断基準として、
(1)その人自身の生活状況や心身の状況
(2)認知症高齢者との親族関係の有無・濃淡
(3)認知症高齢者との同居の有無その他の日常的な接触の程度
(4)財産管理への関与の状況など認知症高齢者との関わりの実情
(5)認知症高齢者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容
(6)これらに対応して行われている監護や介護の実態
を列挙し、これらの事情を総合考慮して、その人が認知症高齢者を現に監督しているか、あるいは監督することが可能かつ容易であるなど、衡平の見地から責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべきとしています。そして、妻と長男はこの準ずる者にも当たらないという判断を示しました。

この基準自体は妥当なものだと思いますが、一方で、表面的な理解に基づいて「介護に深くかかわると責任を問われるかもしれない。だから、かかわらないでおこう」という発想を招くおそれはあるようにも思えます。また、多数意見は民法714条1項但書きの免責事由「その義務を怠らなかったとき」については言及していません。いずれにしても、裁判例の蓄積が必要なところでしょう。

個人的には、少数意見のように、(準)監督義務者の範囲についてはある程度広くとらえ、免責事由を柔軟に考えることで妥当な結論を導く考え方がしっくりきます。

そして、もう一つ忘れてはならないのは、被害者の救済という視点です。今回はJR東海という大企業かつ公益性の高い鉄道会社が当事者でしたから、賠償金はなしという結論でも著しく社会正義に反するという話にはならないと思いますが、被害者が私人の場合は、一方的に泣き寝入りを強いることはできません。

このようなケースは公的補償で対応すべしという意見もありますが、本来は民民レベルのことに公的補償はなじまないのではないかという考え方も成り立ちますし、仮に実施するとなれば制度設計が非常に難しいでしょう。モラルハザードの懸念もあります。

このような事例には保険という仕組みが適合的だと思います。具体的には個人賠償責任保険を利用することになります。この保険は、契約者が賠償責任を負ったときにそれを補償してくれるものですが、これまでは契約者と同居の家族にしか適用されない仕組みでした。これを別居の家族や被後見人に広げようという動きが出ています。

あくまで民間の保険ですから、自分で積極的に加入して備える必要があるものですが、火災保険や自動車保険の特約という形でそれなりに普及しているものでもあるので、現実的な被害者救済策としては有用ではないかと思います。

 

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