法定相続情報証明制度について教えてください。

 2017年(平成29年)5月29日、不動産登記規則の一部を改正する省令(平成29年4月17日法務省令第20号)が施行され、法定相続情報証明制度がスタートしました。

 この制度は、相続人(またはその代理人)が、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等一式と、これに基づいて作成した法定相続情報一覧図(相続関係図)を登記所に提出すると、登記官が内容を確認し、認証文付きの法定相続情報⼀覧図の写しを交付してくれるというものです。

 これまでは相続手続に際し、登記所や金融機関の窓口にそれぞれ戸籍謄本等一式を持参し、確認してもらうことが必要だったところ、登記所から交付された認証文付き法定相続情報一覧図の写しを提出することで済ませられるようになり、戸籍の束を持ち歩く必要がなくなるほか、この写しは必要な通数を無料で交付してもらえるので、複数の金融機関で同時に手続を進めることも可能となり、相続手続の簡略化に資するとされています。

 この法定相続情報証明のための戸籍の収集や一覧図の作成は専門職に代理してもらうことも可能で、戸籍法10条の2第3項に掲げる者――具体的には弁護⼠、司法書⼠、⼟地家屋調査⼠、税理⼠、社会保険労務⼠、弁理⼠、海事代理⼠及び⾏政書⼠が代理人となることができます。

 この制度が導入された背景には、近年、相続登記がなされないまま放置されている不動産が増加し、これがいわゆる所有者不明⼟地問題や空き家問題の⼀因となっているという指摘があり、これを受けて、相続登記を促進するために法務省がこの制度を新設するということです。ただし、被相続人が不動産を所有していなくても、この制度を利用することは可能です。

 法務省としては、この制度によって交付された法定相続情報⼀覧図の写しが相続登記や預⾦の払戻し等さまざまな相続⼿続に利⽤されることで、相続⼈と⼿続の担当部署双⽅の負担が軽減されるとともに、制度を利⽤する相続⼈に相続登記のメリットや放置することのデメリットを登記官が説明することなどを通じて、相続登記の必要性について注意を喚起したいと考えているようです。

 この制度が普及するかどうかは、金融機関の対応次第ではないかと考えています。

 金融機関からすれば、これまでは自ら戸籍の束を確認する作業をしていたところを法務省が代わりにやってくれるわけですから、受け入れることに抵抗は少ないように思われます。実際にも、戸籍謄本等一式に代えて認証文付き法定相続情報一覧図を提示する形でもOKという扱いを始めた金融機関は着実に増えているようです。

 ただし、この制度は万能ではありません。相続人の側からすれば、戸籍を集める手間そのものは軽減されません。加えて、これまでは銀行の窓口に直接戸籍の束を持ち込んでいればよかったのが、わざわざ登記所まで出向いて証明をとってこなければならないということになれば、かえって手間が増えることにもなります。少なくとも過渡的には、法定相続情報一覧図でもよいし、これまでどおり戸籍の束でも可という対応をするとは思いますが。

 法務省はこの制度に関し、戸籍の職務上請求ができる士業に対して一律に代理業務を認めました。もっとも、戦前の戸籍(特に大正4年式)には、判読が難しいもの、一つ前の本籍地や戸主がわかりにくく、さかのぼることが難しいものもあります。また、相続人が多数になると、相続情報一覧図も複雑になってきます。相続業務で実績のある専門職に依頼するのが無難であるとは言えるでしょう。