後見制度支援信託という仕組みがあると聞きました。これはどういうものですか。

 3-10でご説明したとおり、成年後見人の役割は本人の財産管理と身上保護であり、財産管理とは、本人が所有する不動産や預貯金の管理、年金の管理、税金や公共料金の支払いなどです。

 ところが、残念なことに、この財産管理をめぐり、後見人と他の親族の間でトラブルになったり、後見人が本人の財産を使い込んでしまうなどの不祥事が多発しました。家庭裁判所による事後的なチェックでは不十分な面があり、本人の財産を守るためには新しい仕組みが必要であると考えられ、この「後見制度支援信託」という仕組みが導入されました。

 後見制度支援信託の大枠は、本人の財産のうち、日常生活に必要な部分については後見人が管理しますが、それ以外の部分は信託銀行等に管理をゆだねてもらうというものです。

 裁判所が発行するパンフレットによれば、家庭裁判所は、後見制度支援信託を利用することが適当であると判断したとき、弁護士、司法書士等の専門職を後見人として選任します。そして、選任された専門職後見人は、本人の生活状況や財産状況を踏まえ、後見制度支援信託の利用に適しているか否かを判断します。利用に適していると判断したときは、信託する財産の額や親族後見人が日常的な支出に充てる額を設定し、家庭裁判所に報告書を提出します。

 家庭裁判所は、報告書の内容を確認し、後見制度支援信託の利用に適していると判断したときは、専門職後見人に対し指示書を発行します。専門職後見人はその指示書を銀行に持参し、本人を委託者兼受益者、銀行を受託者とする信託契約を締結し、金銭を信託します。この時点で関与の必要がなくなれば、専門職後見人は辞任し、親族後見人に引き継ぎます。

 信託が始まると、銀行は、信託された金銭の中から契約で定められた金額を定期的に後見人が管理する口座に交付します。本人の入院などのために一時的に多額のお金が必要になったときは、後見人が家庭裁判所に指示書を出してもらい、その指示書を銀行に持参して支払いを請求します。

 このように、生活に必要な費用は定期的に交付される一方、一時的に多額のお金を支出するときには家庭裁判所の事前チェックが入ることから、本人の財産の保全に資するとともに、後見人の金銭管理の負担も軽減できる仕組みになっています。

 後見制度支援信託は本人が死亡すると終了し、残った信託財産は相続財産となり、相続人に相続されます。

 後見制度支援信託の対象となるのは金銭に限られます。不動産や有価証券は対象となりません。東京家裁では、当初、信託利用の検討対象について「流動資産が1,000万円以上ある方」としていたのを、2014年(平成26年)5月からは「500万円以上ある方」に変更するなど、この制度を積極的に利用する方針をとっていて、親族後見人による使い込みが減少するなど、一定の成果を上げています。

執筆者
行政書士・社会福祉士 稲吉 務
(足立区の専門職成年後見人)