成年後見(法定後見)は具体的にどんな場面で利用されているのですか。

 実際に家庭裁判所に申立てがなされた事例などを見ると、以下のケースに当てはまるときに成年後見が利用されています。

○財産管理・処分(本人名義の預貯金の払い戻し、不動産の売却など)
(例1)
 夫の認知症が進み、自分で銀行預金の払い戻しをすることができなくなりました。生活費に充てるため、妻が通帳と印鑑を持参して窓口で払い戻しをしようとしましたが、「ご本人でなければ払い戻しはできません」と銀行に断られてしまいました。
 →妻が夫の成年後見人となり、夫の預金を管理することにしました。
※現在、このようなケースでは、後見制度支援信託の利用が求められるか、第三者後見人もしくは後見監督人がつく事例が多くなっています。

(例2)
 ひとり暮らしの母親の認知症が進み、長男家族と同居することになりました。隣県に住む長男は、母親が住んでいた自宅が老朽化しているため、この際、母親の名義となっている自宅の土地建物を売ることを考えています。
 →長男が母親の保佐人となりました。長男は、家庭裁判所から居住用不動産の処分についての許可を受け、母親の自宅を売却する手続を進めました。

○「親亡き後」の支援
(例3)
 重度の知的障碍がある男性の母親が亡くなりました。他に頼るべき親族はいません。
 →第三者(専門職)が成年後見人となって、男性の身上保護と財産管理を担うことになりました。

○本人が相続人となり、遺産分割協議や相続放棄の手続が必要になった
(例4)
 数十年前に亡くなった祖父名義のままの土地があります。この際、長男である父親の名義に変更したいのですが、父親は重度の認知症で、相続登記のために必要な遺産分割協議書に署名捺印できる状態ではありません。
 →長女が父親の成年後見人となり、父親に代わって遺産分割協議書に署名捺印しました。

(例5)
 若年性アルツハイマー病を患う夫の弟が突然事故死し、夫が弟の財産を相続することになりました。弟には負債しか残されていないので、夫のために相続放棄の手続をしたいのです。
 →妻が夫の成年後見人となり、夫に代わって相続放棄の手続をしました。

○介護保険・医療契約(老人ホームへの入所手続、病院への入院手続など)
(例6)
 父親が特別養護老人ホームに入所できることになりましたが、認知症が進んでおり、自分で契約を締結することができません。
 →長男が父親の成年後見人となり、父親に代わって入所手続を進めました。

○悪質な訪問販売などから本人を守る必要が生じた
(例7)
 ひとり暮らしをしている母親のもとをたびたびセールスマンが訪れ、高価な布団や呉服などを買わされているようです。このような契約を取り消すことができるようにしたいのです。
 →長女が母親の補助人となり、10万円以上の商品を購入することについての同意権が与えられました。その結果、母親が長女に断りなく10万円以上の商品を購入してしまった場合には、長女がその契約を取り消すことができるようになりました。

執筆者
行政書士・社会福祉士 稲吉 務
(足立区の専門職成年後見人)