任意後見とはどのような制度ですか。

 任意後見は、本人の判断能力がしっかりしているうちに、自分の判断能力が低下したときに後見人をお願いしたい人とあらかじめ契約を結んでおいて、その後、病気などで実際に本人の判断能力が低下し、家庭裁判所に任意後見監督人(任意後見人を監督する人)を選任してもらった時点から後見が開始するというものです。

 任意後見契約は、「自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約」(任意後見契約に関する法律2条1号)です。契約ですから、任意後見人に具体的にどのようなことをしてもらうかは、本人と任意後見受任者双方の合意で自由に決めることができます。本人の希望や事情に応じて任意後見人の仕事の内容を柔軟に決められることが、この制度の最大のメリットと言えるでしょう。

 反面、任意後見人には取消権がありません。例えば本人が業者の口車に乗せられて、本来は1万円の価値しかない商品を10万円で購入するという内容の契約を結んでしまったとき、家庭裁判所が選任した成年後見人であれば、後見人の判断でその契約を取り消すことができるのですが、任意後見人にはそれができません。本人の権利保護という面では法定後見に及ばないのが任意後見のデメリットです。

執筆者
行政書士・社会福祉士 稲吉 務
(足立区の専門職成年後見人)